ほのぼのすぎる時空なんてシカトの楽しい閣下のおうちに、人修羅さんとライドウさんラチられてます
【傾向と対策】ほのぼのですが殺伐でもあり/人修羅:マドカさん(超フレンドリーでリアリスト)/
ライドウさん:円(えん)ちゃん(おっとりしっかりちょい古風かなり貞淑)/閣下:良く判らない……
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再装填5WAY




「あー暇、暇ー!」
「……同意」
二人で居るにはだだっぴろい12畳間の片隅で、ちゃぶ台で二人で茶をすすりながらアマラTVを見ていたら、唐突に来たよ、何か。

「そんなに暇なら、ゲームでもやろうか」

「へ?ゲーム?プレステとかDSとかWiiとか360とかあったっけここ」
「……???」
ほらー円ちゃんにいたっては、ゲームって何?って首傾げてるって。

全く勝手なんだから、もう。

満面の笑みなんだけど無表情でルイさんが現れたと思ったら、唐突にゲームだってさ。
てっきりゲームとか言うならお子さま姿で来るかと思ってた。
ああ、でもこのヒトお子さま仕様で来ると全く喋んないから、遊べないかあ。
それ以前の問題として、あるなら最初に出しておいて欲しい。

今日は何か俺等のデフォルトに合わせたんだろうか、レトロな青年風若作りで来たこのヒト。
言うまでも無い、あのヒトの事。
そういえば『ライドウ』んとこには、この姿で遊びに行ってたんだっけ?
とりあえずカグツチもまたぶっ壊しちゃったもんだから、ちょっとリロードタイムね、遊ぼう!とか言われて、あの後二人とも仲魔もろともラチられて来た。
つーか、しっかり俺も円ちゃんも仲魔全部取り上げられちゃって、円ちゃんにいたってはあの黒猫のゴウトにゃんまで猫質にされているので、逆らうに逆らえない。

仲魔をどうこうしようなんてそんなつまんないことはルイさんはしないけど、はっきりいってつまんない。
ケルベロスのもふもふも、ピクシーとのドツキ漫才も出来ない、俺の心のオアシス、だいそうじょうのお爺ちゃんのありがたくおもろい話も聴けない日々なんて、お湯にしょう油一滴だけ入れて3リッター飲んでなさい、とか言われる拷問に等しいと思うのだ。
円ちゃんもどこか落ち着かないみたいだ。そんなんで、既に三日目。
一日目は、二人ともかなり消耗してたから、ほとんどひっくり返って寝てた。
二日目は、起き上がったけど、仲魔とは引き離されちゃったから、円ちゃんと二人で、世間話してた。
で、三日目の今に至る。

っていうかココはどこって話になるんだけど、もともとリアル主義な自分には、さっぱり空想の余地もない。
ホント、ここどこ!リロードが必要でブレークなら、世界ごとぶっ飛ばしといてなんだけど、自分家帰りたいよ。
……もう、いっかー。魔界のお城で、うん。
「……とはいえ、どうして六畳間とか、四畳半とか妙に落ち着く空間があるんだろう……不思議」
だって悪魔で一番ガチに強い御方がいるんだから、何が起きてもしゃーないかもう、と納得したら何か釘刺されるようなカンジで言われたっけ。
「マドカ、それはまあそこそこ間違ってないから、訂正はしないよ。ああ、和室ははただの趣味ね」
「訂正されても、俺のアタマじゃもう既に何も判んないデスよ……」
ふふ、とルイさんはただ楽しそうにやっぱ無表情で笑っている。
釘さされた、と気付いたのは偉いよ、となんか謎かけしてきてんのはわかるんだけど。
和室とかあんのは、俺と円ちゃんに対するあてつけなのか配慮なのか。
それさえもさっぱり判んないから、もどかしい。

判んないといや、名前もだ。教えてもらってなかったし、ああ呼べこう呼べなんて、そんな事も言われないでいたし、別に改まって呼ばなくても、あのヒトには俺の事なんて、マガタマ越しにダダもれだから、ま、いっか位にしか思ってなくて。
「ルイさん……自分はいつ帰宅可能ですか」
なんて、ライドウさんこと、円ちゃんのちょっとおっとりした科白聞くまで、俺、このヒトの名前訊くのすっかり忘れてた位だ。
だってみんなそのお名前は口にするのも恐れ多い〜とかそんな感じだったじゃん。
呼ぶのはマズいのかと思って、ずっと遠慮してたのに。
ここぞとばかりに、俺も便乗した。
「あー!俺もルイさんって呼んでいい?いい?」
「いいよー」
何か怖いけどまあフレンドリーだね、この姿のチミ、とか脳内でモコイさんごっこしてたら、首の後ろの角……なのかなあ、自分の事だけどいまだにこれなあに、状態だけど……に、ピリピリとくすぐったい上に心臓バクバクするようなプレッシャーかけられたから、心の中で必死こいて、何かのゲームで見た怖い科白がゲーム画面覆い尽くす位の勢いで、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい以下略したら、やっと赦してもらえたらしい。
……なもんで、あんまりフレンドリーに期待するのも自重した。
もう、ホント、勝手なんだから!
勝手すぎー!


「はいはい……で、ゲームして遊ぶんでしたっけ?」
「そうそう、ぬかりはない、プレステ位あるよ、マドカ」
ルイさんがそう言うと、12畳間の一辺の壁が、ドコーンガコーンと変形しだし、ばばん、とゲーム機やらゲームソフトやら攻略本やらが溢れる位に飾られた棚が、展開した。すげーギミックだ。
「あるんかい……」
「……ルイさん、マドカ殿……ぷれすて……とは?」
そういやライドウ……こと、円ちゃんは、俺等の国の年代区分で言ったら、大正から昭和初期位から連れてこられた人らしいから、確かにゲームとか言っても良く判らないらしい。
なんか麻雀牌は持ってたから、麻雀とか花札とかなら、円ちゃんだって判るんだろうに。
「そうだねぇ……円に判りやすい様に説明するなら、……ちょっとおいで」
「?」
ルイさんが、超力(って円ちゃんが良く言う)すんごい笑顔で、円ちゃんを手招きした。
「わー、だめー、円ちゃん、ルイさんに近寄っちゃ駄目!」
「!」
円ちゃんは、素直にルイさんの方に近寄ろうとしたので、俺はそのマントの端をはっしと……洒落じゃなくてね、つかんだ。だって、それは。
「ルイさんはー、円ちゃんにただチューしたいだけだからー!教えるとか言って、口から情報を脳みそに刷り込む変な教え方するんだからねー」
いや、これは事実だから俺は止める。
「!!!」
円ちゃんが途端に警戒の構えで、さっと後ろに飛びのいた上に、愛刀に手をかけて構えた。
つーかこの状態で、ルイさん相手に闘う構えを取れる円ちゃんを尊敬する。
正直、俺にはめんどく……いやいや、怖くて自発的にはそんなこと出来ない。
「ちっ……」
隠そうともしない舌打ちが、脳内で聞こえた。
円ちゃんを見ると、それは円ちゃんにも聞こえていたようで、微かにぷるぷるとそのマントの裾が震えている。

「マドカ、余計な事言わない」
「俺はただ、円ちゃんの貞操を心配しただけ……あいたたた……やめてーやめやめ、ルイさん痛い痛い、痛いっつーか、めちゃくちゃくすぐったいからやめて、それ!」
口答えしたら、すぐまたあの角くすぐられる刑に処され、俺は畳の上にひっくりかえって、じたばた転がりまわるハメになった。孫悟空か俺は〜。
円ちゃんはそれに驚いて、刀から手を離して、たたた、と俺の傍に駆け寄ってきた。
そして、すぐにぐるぐる転げまわってた俺の身体をあっさり捕獲した。
「ルイさん……マドカ殿にこれは……あまりの仕打ちです」
「そうかな」
頭の上で不穏なやりとりが勃発して、俺はのたうちまわりながらも、冷や汗だった。
やがてちょっと、冷たいひんやりした円ちゃんの手が、そっと俺の首の後ろに宛がわれて。

ぱんっ

アタマの後ろで、何か結界が破られるような……そうそう、あれあれ、デカジャなカンジの小気味イイ音がした。
その途端、俺はルイさんからのこちょがし攻撃から解放され、みよーん、と円ちゃんの腕の中で脱力した。
「……ハァハァ……マジ今度こそ、し、死ぬかと思った……」
「円……君だって、ゴウトにゃんにねこじゃらし使うだろう?」
「それとこれとは別です」
円ちゃんは何故か胸を張った。
「同じだと思うよ」
「……」
また頭の上でまた不穏な空気が流れ出し、俺はホントどうしようかと思った。
その次の瞬間、俺の身体は、優しく畳の上に転がされ、円ちゃんは、がばっと立ち上った。
「このライドウ、それが正しいこととは思えません」
普段の円ちゃんからは想像も付かないような、激しい物言いと共に、俺の目の前に、ドスッという音がして、円ちゃんの愛刀が、畳の上に突き立てられた。

目の前離隔、約10センチですよ……ちびるかと思った。
ライドウさんな時の、円ちゃんは、少し怖い。

「……ルイさんは、円に言ったではありませんか、円の正しさ全てに、ルイさんがなってくださると」
何の話してんのかは判らなかったけど、多分、円ちゃんの宗旨みたいな何かに抵触したんだろう。
「それが叶わないならば、円はここでお暇させていただきます」
「どうやって」
ルイさんも円ちゃんがどうするつもりなのか、見たいんだろう。煽ってるのが露骨。

円ちゃんの目がふ、と半眼になると、円ちゃんは畳に突き刺した自分の愛刀を今度は勢い良く抜き、返す刀でためらいも無く自分の心臓を突こうとした。

……のは流石に見えてた俺は、無意識に爪先に絶対零度を発動させながらスピンルーニーで起き上がり、その切先を思い切り蹴り上げる。
そりゃー悪魔でもそれは止めるわ、そんなお暇、意味ないから。
現実世界と同じ重力の法則に従って落ちてきた円ちゃんの刀は、ルイさんの手が優雅に受け止めた。
ホント、いやマジでこの部屋天井高くて良かった。
「……」
「……」
一瞬の無言の後、ルイさんが、ふふ、と笑って、降参降参と肩をすくめてみせた。
「……わかったわかった、僕の負け」
円ちゃんの目はとても悲しそうに、それでも人とは思えないような冷たい冥光を湛えてルイさんを見ていた。
俺でもそんな目は、出来ないかも。このヒト相手には。
「……円の前では、そのようなお戯れは……止めていただきたく思います」
ルイさんが円ちゃんの愛刀を無造作に構えて見せる。
そして、興味ない、という風で、はい、とあっさりと返される。
「円はその代わりに僕に何をしてくれるの?」
が、その刀を受け取ろうとした円ちゃんの手が、一瞬強張った。
「してくれる、ってのがミソなんだ、やーらしー」
「マドカは黙ってて、ね?」
思わず茶々を入れた俺に、ルイさんは黙れと笑顔をむけた。
「何をすればいいのですか」
「自分で考えなさい。じゃないとゴウトにゃんと君の大事なミシャグジ様、返してあげないよ?」
その途端、判り易すぎる程、円ちゃんが動揺した気配が俺とルイさんには伝わってた筈。
言うか、それを。言ったら興ざめって奴なんじゃないの、ルイさんらしくない。
そんな俺の突っ込みも、ルイさんにはしっかり伝わってたらしく、ちょっぴり可愛らしく、あ、しまった!みたいな気配もした。しまった!ですむかこれが。

「……未熟な円には判りかねます。申し訳ありません……」
円ちゃんは、静かにとても困った顔をすると刀を鞘に納め、とぼとぼと部屋の隅に座布団を持っていって、くるりと背中を向けて正座して、動かなくなってしまった。
何か、俺の見た光景が間違いじゃないのなら、円ちゃんは壁を向いて、静かに声をたてずに泣いているっぽい。
肩から床にかけて富士山のように綺麗にひろがったマントのシルエットが微かに震えていた。
っていうか、鬼みたいな強さのライドウさん、円ちゃんが泣くなんて相当な事だと思うんだけど。
ルイさんだって、どんだけ円ちゃんがゴウトにゃんとミシャグジ様を大好きなのか知ってる筈なのだ。
まー知っててやってんだけどね。ここまで来ておいていじめる訳が判らない。

「あー!ついに、な、泣かせた!ルイさんがいじめたから!この悪魔の中の悪魔!ヒトデナシ!」
思わずジャベる構えを取る俺と。
「えー!だってマドカがあんまり円と仲いいんだもん!っていうかお前が言うか!*****!」
すかさずテトル気満々のルイさんは、うっかりバトルの場としては、少し狭すぎる広い12畳間の片隅で、しばしけん制しあった。
「最後の科白は、ここに居る俺への素敵な褒め言葉だと思っていいですよねえ……」
「マドカが敬語になってる……本気なんだね……」
「……死は全てに平等に訪れるとか、訪れないとか、訪れるとか……訪れるとか……訪れるとか……それは、本当でしょうか」
「マドカ、訪れる方が多くなってるよ……まさか本当に本当にやる気かい?」
「……ルイさんがやりたい事をやるのは、勝手で、俺もそれには逆らえないですけど、でも同時に俺がやりたい事をやるのもルイさんがそれを赦すのも当たり前で、それでもってそれこそ勝手な事情ですよね。誰にもそれをどうしようなんて、全部決められない。だから俺がここに居るのに。それさえも意味が無いんだったら、俺にも貴方の全てにも意味がない」
「マドカの言ってる事、判るけど、それじゃわかりにくいよー」
「怒ってるんです」
ジャベるとみせかけてー、魔弾。
そのダメージは、ルイさんの身体を貫通して、部屋の壁に思いっきり穴をあけた。
「……マドカ……それは卑怯だ」
「どこが。どこまでもダダ漏れなのに。無心でスキル繰出せるような器用な事出来ませんよ」
喰らった本人は、ちょっと風が通り抜けた、位の事で済んでるので、罪悪感は全く無い。
何だよ、甘んじて受けたくせに。
そんな時ばっかり悲しそうな顔すんな、この悪魔!

俺はルイさんに背を向けた。
ちょっとの間は、しょぼーんとしてればいいのだ。

そこで、ふと壁際の円ちゃんを見ると、壁が打ち抜かれる轟音に流石に驚いたのか、円ちゃんが肩越しに壁の穴をまじまじと見ていた。その前では、ルイさんがいじけて、畳の上にののじを書いている。
ルイさんはシカトして、俺は円ちゃんのそばへと戻った。

「マドカ殿……」
「ああ、ごめんごめん、うるさかったよねー。あ、ルイさんはほっといていいから。ちょっと拗ねてるだけだから」
「申し訳なく……」
「だー、もういいって、円ちゃんが悪いんじゃないもの」

次の瞬間、俺は円ちゃんにハグられていた。

「え……どしたの……円ちゃん」
「マドカ殿が悲しそうな顔をしていた」
ないよ、それはない。

なんて、この人には誤魔化せないか。
あの人と同じ、約束の上に生まれ、それ故に悲しみ、静かに強く孤独に起つような人には。
ありがとう、判ってくれて。
確かに今俺の目の色は違うけれど、微かに残ってる何かの塊は、あのヒトが作った悪魔の一部。
悪魔でも天使でもあるあのヒトが、どうして人間を完全な悪魔に出来るかな。
「マドカ」
強く抱きしめられる。首筋に暖かく伝うのは、円ちゃんの涙だろう。
多分、円ちゃんには本能的に判ってて、だからこうして抱きしめてくれてる。
「大丈夫だよ」
本当は、俺がルイさん撃ち抜くのも、悲しいって思ってる事も。
そこに在るのが、報われない事なのか、報いなのかワカンナイ事も。
「……」


背後でかなり、面白がってる気配がぎゅんぎゅんにした。

思わずハグりあってた、円ちゃんと俺は即座に反転して、各自最大奥儀を繰出す構えを取るまで一瞬。
もちろんそこには、既にいじけた空気からは脱出し、王の中の王みたいなオーラ全開で、畳にうつ伏せになり頬杖をつき、脚をじたばたさせながら、こっちをニヤニヤと見守る、王の中のヒトが居た。

「ふふ……仲良きことは欝苦死期事かな、だっけ」
「ルイさん、漢字が誤字になっております」
「そうだよ!そんな仲良しイヤすぎ……」

「だって、あんまりマドカと円が必死だから」
全部、むしっちゃいたくなる。

今、本音が出たな、おい。
腹の中がガンと冷えてくのが判る。
隣でも円ちゃんがとっても困った顔をして、うわー、と小声で呟いていた。
それでも嫌な顔をしないのが、円ちゃんの凄いトコロだ。
俺なんかもー、凶悪なツラになっちゃうもんね。

「だからー!ルイさんは、ゲームしにきたんじゃないのー」
とりあえず本題にもどすぞー!とばかりに、俺はルイさんに言葉だけで、突っ込んだ。
「……」
「……………………あ、そうだった!」

忘れてたらしい。




で、その数分後、俺と円ちゃんは、アマラ深界のエントランスに連れてこられた。
「何でアマラ……」
「相変わらずうねうねしてますね」
俺と円ちゃんは、きょろきょろしながらルイさんの後についていった。
ルイさんは、各カルパへのワープゾーンがある部屋に来ると、嬉しそうに語りはじめた。
「やっとね、ここのゲーム、バージョンUPしたんだよね。結構メンテに時間かかっちゃってさー」
各穴の扉が再び閉じて、扉の上には禍々しく真っ赤な血の色で、「Ver,2」と書いてある。
「うっはー」
「ば、ばーじょん2?」
どこかその扉の血文字から、知ってる気配が漂ってくる。
「……ルイさん」
「なに?」
「……まさかとは思うけど、メンテしたのベルさん?」
「うん」
「メンテ、どれくらいしてたの」
「君らが穴ほり遠足にきた後位から、カグツチツアー後半位までかな。結構、バグっちゃてもう僕、大爆笑だったよ。何万の同胞がデバッグ作業で力尽きたことか……、でも彼等はユーザーの要求に見事応えてくれたよ、お陰で今回君たちにお披露目できる」

かわいそう……。
気の毒に……。

思わず俺と円ちゃんはまなざしだけで、とある大悪魔とデバッグに駆り出された悪魔達の成仏を祈った。
まー、そんなカンタンに昇天なんかしてないとは思うけども。

「あの位で、くたば……もとい、倒れる奴ではない」
くくく、と本業の魔王さまみたいにカッコつけてるけど、ルイさん猫かぶるの失敗してるよそれ。


で、本題。
「バージョンUPって、何?アイテムとか増えてるんですか。それとも難易度あがってるとか」
「両方」
「???」
円ちゃんは、不思議そうな顔をしている。
「円は、ここのワープゾーンもぐったことなかったね」
「はい」
「え、なんで!」
「だって、円には、専用エレベーター……がはっ、ちょっとマドカやめなさい、やめなさい、こんな狭いところでジャベるのはやめなさい!」
思わずノーマルにワンパンかました後、俺はルイさんに無意識にジャベってしまいそうになった。
意識外のワンパンだったので、珍しくルイさんはモロにくらったようだった。ごめん。
「ホントにジャベリン好きなんだから……」
ぶつぶつ文句を言ってるけど、楽しそうなのはどうしてだ。ホントわけわからん。
「そういう問題じゃない……ひどいひいきだ」
「だから、今回は円も連れてきたんじゃないか」
あー、はいはい。

「あの……ルイさん、マドカ殿……ここには何があるのでしょうか」
「マドカ、説明してあげて。僕、ちょっとチェックモードいじるから」
ルイさんは、扉を開けて、中を覗き込んでいる。
「はいはい……えーっとね、この中シューティングゲームっぽくなってるんだけど……つーかソニッ●っぽいカンジでコインとかアイテムとるとそれがもらえるんだけど……って、円ちゃんにどう説明しろってんだよ!」
「そこにセガサターンがあるだろう」
「うっはー、そこでサターンかよ」
「悪魔だけにね……って、うわっ、こら、マドカ、僕を突き落とすのはやめなさい!」
俺はうっかりまた無意識で、ルイさんの背中をワープゾーンに突き落としそうになった。
まったくどれだけオヤジギャグに付き合えば、最後の大戦とやらは始まるのだ。

とりえあえず、懐かしのセガサターンで、ソニックとか各種STGをプレイしてみせて、円ちゃんにはそれとなく納得してもらった。
「……修験場みたいなモノですか」
「……それなあに?……ふんふん……ああ、うん、そんなカンジ。練習場っていうか、模擬戦って言えば良かったのか」
「それで、しゅーてぃんぐとは、戦闘機を自分の手駒と考えて、模擬戦をする事なのですか」
「うん、そうそう」
「でも、ここは生身で入る場所ではないのですか」
「そうなんだよねー」
「そこは今回バージョンUPしたんだってば〜」
その辺りまで説明したトコで、何か点検してたらしいルイさんが自分たちの方へ歩いてきた。
「今回はね、特別に二人の仲魔を自機にできるんだよ」
「えー、マジ?」
「……仲魔を……戦闘機に見立てると?」
「ただ、ダメージ食らったら仲魔がまんまダメージ受けるから、気をつけて遊ぶんだよ?」
「うへぇ……」
「!」
円ちゃんがとっても悲しそうな顔をした。そりゃそうだ、円ちゃんには分が悪い。
練習位させてあげればいいのに。
「サターンがあるでしょ」
「ルイさん……」
「がんばります……」

円ちゃんは、すっくと立ち上がると、マントを脱ぎ捨てた。
それを自分のとなりにきちんとたたんで、正座すると、おもむろにコントローラーを構えて、ゲームを始めた。

「円ちゃんがアマラで正座して他社製品のゲームをしている……とてもシュールな光景だ」
「円は真面目だからね、だから面白い」
「あー、はいはい、で、肝心の自機はどうするんですか、俺等からみんなとりあげて連れてっちゃったのって、もしかしてこれのためだとか?」
「うん。各自、能力にわりふって、ショットとかボムとか設定しといたから」
「マメ……流石、王の中の王……の中のヒトだ」
「中のヒトは余計だよ、マドカ」
ルイさんは、本当にやりたい放題だ。

おしゃれ鞄の中から、小さいサイズのガチャポンのケースがバラバラと出てくる。
「……あれ?」
どこか知った気配が、たくさんする。
「中、見てご覧、君たちの仲魔が入ってる。紅いケースがマドカんちの。黒いケースに入ってるのが、円が連れてきてる子達だよ」
「……かわいそーに……こんなトコにぎゅうぎゅうにつめられて……おーいピクシー、あ、生きてる生きてる良かった……うわ、何かすげー怒ってるよ……もうどうすんだよ、怖いんだからね、出したら、絶対説教される」
一つのガチャポンを覘くと、中で、うちのピクシー姐さんが、鬼のような形相でぷんすか放電していた。正拳突きでケースをブチ破ろうとしているのは、マダム・ニュクスだ……。流石うちのパーティの屋台骨の女性陣は、こんな時でも頼もしくて涙が出る。
「ちょっとした余興じゃないか、皆快く協力してくれたよ」
「どこが……絶対みんな恐喝だと思ってるよ……」
「お待たせしました……」
ガチャポンを拡げて、あーだこーだ喋っているうちに、円ちゃんがひと通りのプレイを終わらせ、再びいつものマントを羽織って、ルイさんと俺のところに戻ってきた。
「はいすこあがでました……」
「……円ちゃん、すげーな初見で……俺よりハイスコアって何」
「はいはい、円にも返してあげるよ、あ、こっちの大きいガチャポンには、ゴウトにゃんが入ってるからね。あ、でも言っとくけど、彼にはスキルの割り振り出来ないから、自機に使うなら他の子にしなさいね」
「……」
ガチャポンケースに入れられた仲魔を見て、円ちゃんの顔がぱあああ、と輝く。
「……良かった……ゴウト、聞こえますか?……あれ?」

ゴウトにゃんは、流石に大物だ。ガチャポンケースの中で爆睡している。
「ゴウト……」
「ゴウトさん、やっぱすげーな、肝据わってンね……」
「……」
円ちゃんは、少し残念そうな顔をしたけれど、すぐに他の仲魔のケースを丹念に確かめ始めた。
「円、今、マドカにも説明したけど、各自の悪魔には、ショット・ボム・必殺技・それからショットのパワーアップ形状を割り振ってある。最初は難易度さげてあげるから、まあ、好きなの選んで自機にしなさい」
こくり、と円ちゃんは頷いた。
そして、迷う事なく、一つのケースを手にとった。
その悪魔とは……もちろんアレだった。

ミシャグジ様

「「ミシャグジ様きたー!」」
思わず俺とルイさんの叫びがハモる。

「思った通りだよ……円……君って、どうしてそこまであのおじいちゃん好きなの」
「ルイさん、それは円ちゃんには愚問なんじゃ……」
「……」
円ちゃんは、ただ頷いた。いや、何に頷いたんだろう。
円ちゃんは何かやる気だ!
「いいのかい、円。ダメージは全て、仲魔にも君にも返ってくるんだよ?」



「ならば、ミスをしなければいいのです」



ノーミスクリア宣言まできたー!

俄然、俺もテンションがあがる。
「じゃ、俺もおじいちゃんにしようかな……スピードは遅いけど、レーザーかぁ。ボムは三連で回復付きって、何それ美味しい〜。ルイさん、俺だいそうじょうのおじいちゃんにする」
「君たち、どうして、そんなにおじいちゃん好きなの……」
ルイさんはちょっと寂しそうな顔をした。

「円ちゃん、ミシャグジ様にするの?」
「無論」
「でも、おじいちゃん系は、みんなスピードは遅い設定みたいだけど、大丈夫?」
「ミシャグジ様のショットは、初期値前方に広がる2WAYですが、ホーミングします」
「おおお!」
「ボムのたたり生唾は、パワーこそ中程度の様ですが、画面上の敵機すべてを一定時間緊縛可能です。通常ショットもぱわーあっぷで、最大5WAYのたたり艶電となりますれば、ホーミングの上、敵機を一定時間緊縛可能です。初心者ではありますが、この円が操作を違わなければ、殲滅も可能かと」
「すげぇ……」
一瞬でミシャグジ様の性能と機動性を把握した上に、自分の操作能力を謙遜した上に、勝つつもりだ。
愛以外にない、これは。と、思ったら同じような事を爛れた妄想で考えてる気配が背後からした。


「やっぱり、愛ってすごいねー!」
「……」
「……行こっか」


ルイさんが後ろですごい楽しそうにキラキラして、円ちゃんの反応を待っていたけれど、俺と円ちゃんはそれを超力シカトして、とっとと第一カルパステージの穴にバビューンと、ダイブした。


散々、遊び倒して、最後に俺がアイテム取り損ねたところで決着がつき、お金もアイテムもてんこもりで手に入ったので、あー楽しかったー!と二人でアマラのエントランスに戻ると、そこには寂しくふて寝をするルイさんの姿と、爆睡してカプセルを出たのだろう、かなり上機嫌な黒猫ゴウトさんの姿があった。
すぐにゴウトさんは、しっぽをふりふりしながら俺と円ちゃんの足元に走ってきた。

「おお、円もマドカも帰ってきたか。ところで、ここでふて寝するコレを何とかしろ。先刻から、何世紀にも渡る愚痴を俺に垂れ流している。……鬱陶しくてかなわん」

わー、言っちゃった!

「……ゴウトにゃんは流石だね……」
「鬱陶しい、で済ませられる辺りが、タダ猫ではないのです」




2008/11/19
閣下……うちの閣下はどういうヒトなんだか良く判りません/オチが全くなくてすいません
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